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ASIA VALORANT SHOWDOWN 観戦レポート

9月18日から20日の3日間、AfreecaTV主催のRiot Games公認大会「ASIA VALORANT SHOWDOWN」が開催された。

本大会はVALORANTの競技シーンにおけるエコシステム構築を目指すIGNITIONシリーズの一環として開催され、日本、韓国、台湾、シンガポールの4か国からそれぞれを代表する計4チームが出場した。

日本からは8月に行われた株式会社サードウェーブ主催の国内大会GALLERIA GLOBAL CHALLENGE 2020(以下、GGC2020)で優勝を勝ち取ったAbsolute JUPITERが日本代表として出場、これまで国内では連覇を重ねてきたAbsolute JUPITERだが、今回の大会はチーム初となる国際となる。

当記事では日本代表として出場したAbsolute JUPITERの対戦レポートをお届けする。

準決勝 Absolute JUPITER vs ahq eSports Club

準決勝第一試合、日本代表Absolute JUPITERと対する敵は台湾代表ahq eSports Club(以下、ahq)。

ahqは台湾を代表するeスポーツチームの1つ。League of Legends、PUBGなど複数の部門を保持しており、VALORANT部門にはPUBG出身のプレイヤーが中心に加入した。

PUBG出身のプレイヤー中心に構成されているということもあり5vs5経験を持つ他チームに比べ劣る部分もあると思う方も多いと思うが、ahqはIGNITIONシリーズのアジア大会Cyber Games Arena Pacific Openでは優勝、日本よりLag Gamingが出場したAfreecaTV Asia Invitational Summerでは準優勝と既に国際的な結果を残す強豪チームの1つだ。

連日の国内大会で疲れもあると思うが、是が非でも初戦を勝ち抜き、決勝への切符を手にしたい一戦になる。

Absolute JUPITER vs ahq eSports Club
1stマップ:ヘイヴン

1stマップはヘイヴン、3つのサイトを持つ特徴的なマップだ。両チームのエージェントピックは以下になっており、それぞれパッチ1.08より大幅に強化されたブリーチを採用している。これまでビジネスソーヴァとしてソーヴァを起用してきたcrow選手もソーヴァからブリーチに変更しており、メタへの順応性の高さも垣間見える。

Absolute JUPITER vs ahq eSports Club 1stマップ:ヘイヴン

台湾ahqは1stラウンドよりAサイトの攻めを多く見せる。Absolute JUPITERはtakej選手をAロングに配置、Aサイト守りで最も重要なAサイト入りの斜線を管理し、ファーストブラッドを狙う。

ヘイヴンのAサイト守りにおいてこのポジションは非常に強力で、斜線を切ることで下水道、ロングに入る敵を1つのポジションから確認できる。つまり、最低限1人でも守ることができ、他のサイトに人数を割くことができる。尚且つ前目を守れるため、見方もすぐにAに寄ることが出来るため、かなり強力なポジションだ。

VALROANTというゲームはファーストブラッドが非常に重要なゲームだ。エージェントによりそれぞれの役割、動き方がはっきり分かれているため、重要なエージェントが序盤に倒されることにより今後の攻め、守りに影響が出ることが多い。そのため、オペレーター、ショットガンでのファーストブラッドは非常に重要なのである。

Absolute JUPITER vs ahq eSports Club 1stマップ:ヘイヴン

4ラウンド目、Aサイトを攻めたahqはtakej選手、Reita選手を倒しスパイクの設置に成功した。3vs2と人数的に有利なAbsolute JUPITERはブリーチ、オーメンのアビリティを存分に使い人数をかけたリテイクを狙う。

しかし、ahqはAbsolute JUPITERがサイト進入時と共にブリーチのアビリティを放ちahq Rainy選手が2キル、Absolute JUPITERは不利に思われたがLaz選手が見事な1vs2クラッチを決めラウンドを獲得した。

序盤はAbsolute JUPITERが優勢に展開し、4-1とリードを広げるが、台湾代表ahqも徐々に追い返し6-6で後半ラウンドへ移った。前半ラウンドは同点だった一方、後半ラウンドはAbsolute JUPITERが持ち前のチームプレイ、マップコントロール、AIMを見せる攻めが光った。

特に18ラウンド目、20ラウンド目のLaz選手の動きは別格だった。18ラウンド目の1v3クラッチの4キル、実況・解説のOooDa氏、yukishiro氏共に声を荒げ、”クラッチキング”、”日本の宝”、”GODLAZ”と称えた。このプレイはTwitterのトレンドにも入り、大会を観戦したファンは皆同様に声を上げたのではないだろうか。

20ラウンド目もLaz選手が凄まじい4キルを見せる。CS:GO時代よりそうだったが、基本的にLaz選手はロジカルな動きで、勝てる見込みがない所ではあまり勝負をしない印象を持つ。 しかし、HPが13と一発でも弾丸が掠ればやられてしまうという中、ラストキルを決め見事13-7で1stマップを獲得した。

こちらのプレイはLaz選手がTwitterで挙げた個人視点でのクリップを是非見てほしい。crow選手が「アルティメットあるから」という言葉を無視しラストキル、Laz選手本人も思わず笑みをこぼしている。

Absolute JUPITER vs ahq eSports Club
2ndマップ:アセント

2ndマップはアセント、広いミッドをどうコントロールするかが勝利のカギとなる。Absolute JUPITERはアタッカースタートで、エージェントピックは両チームともに1stマップと同じ編成になっている。

1stラウンド、Absolute JUPITERはAロングにLaz選手を置き、残る4人でAショートを攻める作戦を選択、スパイクの設置成功後、Absolute JUPITERはラフター下に3人で入り身を潜めた。

Reita選手以外の4人がahqのリテイクで1人、また1人と倒されるが、ahqもさすがにラフター下に3人いることは予測していなかったのか、最後まで忍者のように息を潜めたReita選手が2キルを決め1stラウンドを獲得した。

5-2とラウンド差を広げるが、Absolute JUPITERはahqの攻撃的な守りにやや苦戦を見せる。Absolute JUPITERはマップコントロール、セットプレイを駆使しスパイク設置には成功するが、中々取れないラウンドが続き、前半ラウンドは6-6で後半ラウンドに移った。

後半ラウンド、ahqはAbsolute JUPITERの硬い守りを崩すことはできなかった。Absolute JUPITERはトレードキルを意識した守りを見せ、20ラウンド目以降はtakej選手、Reita選手の2オペレーターで完全に攻めを封じ13-8で勝利。ahqに許したラウンドは僅か2ラウンドだった。

試合前、実を言うとどちらが勝利するか予想が出来なかった。Absolute JUPITERは国内大会で連覇を続けているが、ahqはアジア大会での優勝経験を持つ。加えて、Absolute JUPITERは連日の国内大会で対戦アーカイブが多く残っているため、研究、対策はしようと思えば、それなりにできる。しかし、この試合を見て確実にAbsolute JUPITERが上であることを理解した。2ndマップアセントの守り、そしてリテイクを見ればそれは明白だろう。

決勝 Absolute JUPITER vs Vision Strikers

決勝はAbsolute JUPITER vs Vision Strikers、CS:GO時代より続く因縁の対決となった。両チームはCS:GOではAbsolute、MVP PKというチーム名で活動しており、CS:GOでは何度も対戦を重ねたライバルチームである。

CS:GOではMVP PKが一枚上手という印象だったが、昨年のアジア大会ではAbsoluteが遂にオフラインでMVP PKを破り、Absoluteは初のアジアBEST4に輝いた。そして、今回の決勝は以降約1年ぶりの公式戦での対決となる。

VALORANTに移った今もAbsolute JUPITER、Vision Strikers共に国内では王者の地位を確立しており、両チーム共に初の国際大会、そしてRiot Games公認大会決勝でのマッチアップとなる。まるで計算されたかのような両チームの対戦となったが、それは両チーム共に国内王者の実力があってからこその対戦なのである。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers
1stマップ:アセント

決勝の火蓋はアセントで切られた。それぞれのエージェントピックは以下のようになっており、ソーヴァに代わりブリーチを採用するAbsolute JUPITERに対しVision Strikersはデュエリストの枠を1つ減らしソーヴァ、ブリーチを共に採用している。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers 1stマップ:アセント

1stラウンド、Absolute JUPITERはミッドをコントロールし、Aショートを攻める。VALORANTにおいてスタンダードな攻めの一つであるショート攻めだが、Vision Strikersはサイトを空けリテイクを選択した。互いに素早いカバーのトレードキルが続きAbsolute JUPITERが1stラウンドを取得した。

1stに続き2ndラウンドを取得したAbsolute JUPITERだが、3ラウンド目で大きく戦況は動く。Vision Strikersのジェット使いRb選手は、開幕よりテイルウインドでファーストブラッドを狙い2つのキルを取る。基本的にはディフェンダー側では逃げに使われることが多いテイルウインドだが、開幕よりアグレッシブに攻め2キル後は落ち着いてテイルウインドで引く、まさにアグレッシブでスマートな動きだろうか。

流れを付けたVision Strikersは、防衛とは思えない攻撃的な攻めを見せる。攻撃的な守りを見せたと思いきや、次ラウンドはオフアングルで斜線管理など非常に緩急ある防衛で6ラウンドを連取した。

攻撃的なラウンドもただの逆ラッシュの様にも見えるが、その中にはフラッシュ、リコンボルトとしっかりとアビリティを駆使した韓国らしい構造化された動きで、これもVision Strikersの手数の1つだろう。

ここで話は変わるが、Vision Strikers率いるキャプテンのglowは32歳の現役のプレイヤー。FPSシーンでは比較的高い年齢ではあるが、十数年以上トップシーンで競い、Counter Strike 1.6ではFnatic、SK Gamingといったチームを世界大会で破り優勝を勝ち取った経験を持つレジェンドプレイヤーだ。コーチを務めるtermiも当時共にプレイしたプレイヤーで、長年のFPSのノウハウは今も引き継がれているのだろう。

話を試合に戻す。9ラウンド目、Absolute JUPITERは厳しいクレジット状況の中、ハンドガン+アーマーで再起を図る。Aショート中を取った上でBサイトへシフトし、ヘッドショット1撃のハンドガン、シェリフで1人、また1人と頭を打ち抜き、バイラウンドのVision Strikersからラウンドを奪う。

徐々にペースを取り戻したAbsolute JUPITER、ラウンド開幕時はVision Strikersの詰めを警戒しつつ、たっぷりと時間を使いセットプレイでサイトを制圧する動きでラウンドを重ね、試合は6-6で折り返しとなった。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers 1stマップ:アセント
▲ミニマップに注目、Absolute JUPITERはこの形を崩さなかった

前半ラウンドは互いに連取、連取と続いたが、後半ラウンドは一進一退の戦いが繰り広げられた。ピストルラウンドはAbsolute JUPITERが取得したが、以降は取って取られ手を繰り返すシーソーゲームに突入した。

Absolute JUPITERはクレジット状況が厳しい中、Reita選手、takej選手の2人でオペレーターを2本持ち出し、takej選手はミッドをロングレンジで守り、Reita選手はファーストブラッドを積極的に取りに行く動きを見せる。

しかし、この一手は上手く刺さらなかった。Absolute JUPITERはクレジット状況が厳しい中、オペレーターを持ち出したため、アーマーが購入できない、武器、アビリティが満足に購入できないラウンドが続いた。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers
▲16ラウンド目のAbsolute JUPITERのバイ、Reita選手はライトアーマー、
takej選手に至ってはアーマーを購入するクレジットが残されていない。

一方でVision Striksersはクレジットに余裕があるにもかかわらず、オペレーターを購入せず、ヴァンダル、ファントムで攻撃を続けた。オペレーターを持つジェットの強みであるテイルウインドの引きも許さない反射神経、AIMで圧倒していく。

Absolute JUPITERもcrow選手の堅実な守り、Laz選手のシェリフクラッチでラウンドを返すが試合展開を掌握したのはVision Strikers、最後は4ラウンドを連取し13-10で1stマップ、アセントを獲得した。

マップ終了のスコアを見て驚かされるのはVision StrikersのマネーレーティングとRb選手の8回のファーストブラッド、このマップでのMVPを選出するなら間違いなくRb選手だろう。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers 1stマップ:アセント
引用”Laz(@Lazvell) – Twitter, https://twitter.com/lazvell”

Absolute JUPITER vs Vision Strikers
2ndマップ:バインド

2ndマップはバインド、A、Bを行き来できるテレポーターが特徴的なマップだ。全試合BO3の本大会にとって、Absolute JUPITERは絶対に落としたくないマップである。

エージェント構成は以下になっており、互いに1stマップとほぼ変更はないが、glow選手がオーメンからブリムストーンへ変更している。VALORANTリリース時には高いピック率を誇ったブリムストーンだが、ゲームがリリースされ時間が経つにつれ、研究も進み現在はオーメンがピック率を上回っている中でのブリムストーンのピックになる。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers 2ndマップ:バインド

1stラウンド、Vision Strikersはスパイク設置後、ブリムストーンのインセンディアリーの時間稼ぎから、Zest選手の裏どり3キルが見事に刺さる。Laz選手、barce選手もキルを返すがテレポーターへ逃げたbarce選手のセーブも許さない猛攻で1stラウンドを取得した。

4ラウンド目、Absolute JUPITERはエコラウンドであることに加え、これまで3ラウンド連続でAを攻めたVision Strikersの動きを予測しAに4人を配置した。しかし、一転としてのVision StrikersはBサイトへのセットプレイ、フラッシュ、スモーク、ショックボルト、リコンボルトとアビリティをふんだんに使用しセットプレイを敢行、あっという間にラウンドの取得に成功した。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers

しかし、危ないラウンドが続くもAbsolute JUPITERはVision Strikersの攻めに徐々に対応を見せ、1stマップでは上手く機能しなかったReita選手、takej選手のダブルオペレーターが見事にハマり、Aサイト、Bサイト共に堅い守りを見せた。そして、奇しくも1stマップ同様に6-6で折り返しとなった。

▲AサイトのReita選手、barce選手の2キル

▲takej選手のファーストブラッドからLaz選手の2キル

前半ラウンドは良い流れで迎えたAbsolute JUPITERだったが、またしてもAbsolute JUPITERはVision Strikersの攻撃的な防衛に対処することが出来なかった。攻撃的な防衛の中でもVision Strikersの持つ構造化された動きが垣間見えた。

ピストルラウンドもglow選手がアルティメットオーブを取るためのみにスモークを展開しアルティメットオーブを取得する。ブリムストーンのアルティメット、オービタルストライクは強力すぎる一方で8ポイントを必要とするアルティメット。こういった細かい貯金が後のラウンド取得に繋がったのだろう。

Absolute JUPITER vs Vision Strikers

▲glow選手は同様の動きを試合中に何度も見せていた

15ラウンド目、Absolute JUPITERは武器、アビリティを万全の状態で挑むが、サブマシンガンのスペクターを持ったVision Strikersの逆ラッシュに対応することが出来ない。

攻撃的な防衛を見せたかと思いきや、以降はZest選手、Rb選手で2本オペレーターを持ち緩急ある守りを展開した。

Vision Strikersの個人のスキルもあるが、アビリティの使い方も基本に忠実かつ磨きがかかっていた。ソーヴァのドローンはファーストブラッドを狙いに行くだけではなくエリアを1つずつクリアし情報を得る、ブリムストーンのインセンディアリー、オービタルストライクは敵がサイトへ入り切る前に展開し時間を稼ぐ、いずれもFPSにおいて定石通りの動きであるが、それらを戦術に組み込みつつここまで完成度が高く再現できることはやはり長年のノウハウだろうか。

後半ラウンド、Absolute JUPITERは1ラウンドしか返すことが出来ず、Vision Strikersが常に圧倒し続け7ラウンドを取得し13-7で勝利、「ASIA VALORANT SHOWDOWN」はVision Strikersの優勝で幕を閉じた。

大会を終えて

Absolute JUPITERにとって初の国際大会である本大会は準優勝といった結果となった。私個人の意見では両チームのチームプレイ、連携力などそこまで大きな差は無いように感じたが、Vision Strikersはゲーム、マップの理解度、作戦のレベルがかなり高いように感じた。ファーストブラッドを積極的に取りに行く際のアビリティの使い方、スパイク設置後のリテイクなどマップ構造を理解した立ち回りが多く見られた。特に作戦の数、戦術の完成度の高さは凄まじいものを感じた。

Absolute JUPITERはVision Strikersの構造化された動きに迅速に対処できず、試合後半には徐々に順応した一方で試合中にはその差を埋める事が出来なかった。

日本が世界のトップに立つにはまずは韓国を倒すことが最初の一歩である。現状では日本、韓国共に競技シーンへのサポートといった面では大きな差は見られず、むしろ日本の方が優遇されているように感じる。日本が韓国に勝ち、世界を目指すには、まずは大会を観戦するファンである私達が観戦といった面から競技シーンを盛り上げ、コミュニティを活性化させる必要があるだろう。

CS:GOでもそうだったようにAbsolute(現Absolute JUPITER)は何度も世界で負けてきたが、その度に確実にレベルを上げてきた。VALORANTでも同様に、必ずしもこの敗北を無駄にはせず、次に繋げてくれるに違いない。

そして、今大会の日本予選GGC 2020のテーマである「Road to World」の名の通り、Absolute JUPITERは日本からアジアへ名を知らしめた。そんな彼らを筆頭に国内のレベルも上がり、今後開催されるであろうアジア大会で結果を残してくれるだろう。私はそう強く信じる。

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